こんにちは。社会保険労務士事務所アクシアライズです。
2026年の10月は、企業の労務担当者さまや経営者さまにとっては、非常に重要な法改正の秋となります。
今年の10月は、パートタイム・有期雇用労働法の待遇ルール改正(2026年10月1日施行)と、都道府県ごとの最低賃金改定が同時にやってきます。政府が職場の公平性を確保することと、働く方の実質的な待遇改善を一体となって強力に進めようとしている強い意思の表れです。
どちらか一方だけに対応すれば良いというものではなく、両方をセットで見直すことが、企業の法的リスクを減らし、従業員の皆様の安心と信頼につながります。今回は、特にリソースの限られた小規模な企業様向けに、無理なく進められる実務対応のステップを分かりやすくお伝えしますね。
2026年10月実施の福岡県・最低賃金改定における注意点と人件費への影響
まずは、皆さまの毎月の給与計算に直結する最低賃金のお話からです。
福岡労働局の2026年度(令和8年度)の答申によると、福岡県の最低賃金は現在の1,057円から57円引き上げられ、令和8年10月4日付けで1,114円となります。
今年の答申では57円という大幅な引き上げとなっております。時給57円のアップは、企業の人件費にとって非常に大きなインパクトをもたらします。
たとえば、週5日・1日8時間働くフルタイムパートさんの場合、月に約160時間勤務とすると、1人あたり月額約9,120円の給与増となります。もし社内に10人のパートさんがいらっしゃる場合、月額で約9万円、年間では約110万円近い人件費の増加となる計算です。
最低賃金以上の時給を設定することは、例外のない絶対的な法的義務です。10月以降の給与計算で最低賃金をうっかり下回っていたということがないよう、今のうちからパート・アルバイト全員の時給を一覧でリストアップし、漏れなくチェックしておきましょう。
パート・有期雇用労働法の待遇ルール改正(2026年10月1日施行)の重要ポイント
続いて、もう一つの大きな波である待遇ルール改正について解説します。
今回の改正では、いわゆる同一労働同一賃金の考え方がより厳格化され、具体化されました。公式のガイドライン等の改正内容から、特に企業が押さえておきたい重要ポイントを3つに絞ってお伝えします。
1.退職手当や各種手当、休暇など新たに規制対象となる待遇の追加
これまでは賞与や各種手当の扱いについて少し抽象的な部分もありましたが、今回の改正で、正社員との不合理な待遇差が禁止される対象が明確にガイドラインへ追加されました。
具体的に追加された項目には、退職手当、無事故手当、家族手当、転居を伴う配置変更の有無に応じた住宅手当、療養目的の病気休職や休暇、夏季冬季休暇、勤続期間に応じた褒賞などが含まれます。たとえば、正社員と同じ業務を行っているパートさんに対して、無条件で退職金や手当をゼロとするような取り決めは、不合理と判断される可能性が高まりました。パートだから手当や休暇はなくて当たり前という過去の慣習は見直しが必要です。
2.正社員の人材確保だけを理由としたパートとの待遇差は原則不可へ
経営者さまからよく、将来の幹部候補として正社員を確保・定着させたいから、正社員だけに手当を手厚くしているんですというご相談を受けます。しかし今回の改正では、正社員としての職務を遂行しうる人材の確保や定着を図るという目的があることのみをもって、直ちに待遇の相違が不合理ではないと認められるわけではない旨が明記されました。
単なる理念や目的だけでなく、実際に担当している職務内容や責任の程度、配置転換の有無といった客観的な事実に基づいた説明が求められるようになります。
3.採用時や契約更新時の採用書類における説明請求権の明記義務化
実務上、すぐに変更しなければならないのが雇用契約書や労働条件通知書のフォーマットです。労働条件明示事項として、パート・有期雇用労働者に対して、正社員との待遇の相違に関する説明を事業主に求めることができる旨を記載することが法的に義務付けられました。
最低賃金改定と待遇ルール改正に向けて小企業がすぐやるべき3つの実務対応
最低賃金アップと待遇ルール改正。この2つを別々にバラバラ対応するのではなく、この機会に同時に給与体系全体を整理・見直すのが一番効率的で賢い方法です。具体的な3ステップをご紹介します。
ステップ1:福岡県の最低賃金クリア確認とパート間の時給差の検証
まずは、福岡県で働くパート・アルバイト全員の基本時給が1,114円以上になっているかを確認します。そのうえで、同じ職務内容を行っているパートさん同士で時給差がある場合、なぜAさんは時給1,200円でBさんは1,114円なのかを客観的に説明できるか検証してください。業務の幅や能力に明確な差がない場合は、待遇ルールの観点から是正が必要になります。
ステップ2:正社員とパートの職務内容整理と手当・休暇のルール化
正社員とパート社員の職務の責任、判断権限の有無、転勤や部署移動の有無、業務範囲を一度書き出し、一覧表(職務整理シート)を作成してみましょう。
そのうえで、今回明確化された無事故手当や家族手当、住宅手当、夏季冬季休暇などの各支給項目について、自社の基準を整理します。正社員と全く同じ業務・責任を負っているパート社員に対しては、正社員と同一の手当や休暇を付与するルールへと改定する必要があります。
ステップ3:10月以降の労働条件通知書ひな型の見直しと更新
10月1日以降に新たに採用する方や、契約更新を迎えるパートさんへ交付する労働条件通知書には、基本給が福岡県最低賃金以上の金額記載があることを確認し、正社員とパート社員の待遇差について会社に問い合わせや説明を求めることができる窓口などを明記した文言を必ず追加してください。
2026年10月の法改正と最低賃金改定に関するよくあるご質問(Q&A)
- 最低賃金が上がるので、それを機にパートの基本時給を上げて、代わりに手当を廃止しても良いですか?
非常に注意が必要です。今回のガイドライン改正の趣旨には、正社員の労働条件を不利益に変更することなく、パート・有期雇用労働者の労働条件の改善を図ることが求められています。最低賃金改定や格差是正を理由に、一方的に手当を削減・カットすることは労働条件の不利益変更となり、労使トラブルの原因になります。必ず従業員と丁寧に適正な話し合いを行い、合意を得て進めるようにしてください。
- 正社員とパートの職務内容がほぼ同じ場合はどう判断すれば良いですか?
ほぼ同じという曖昧な状態のままにしておくのが最も危険です。たとえば、正社員にはクレーム対応や最終判断の責任がある、パートはマニュアルに沿った定型業務のみを担当する、といったように、責任の重さや判断権限の違いを書面で具体的に明記しておくことが重要です。
- 小さな会社で、手当や退職まで完璧に対応するのは正直しんどいです。
お気持ち、とてもよく分かります。すべてを一度に完璧にしようとして本業が止まってしまっては本末転倒です。まずは最低賃金1,114円のクリア、労働条件通知書への説明請求権の追記、そして自社の手当や休暇制度の現状把握という基礎的な3点から確実に取り組みましょう。これだけでも法的リスクは大きく軽減されます。
おわりに|2026年10月の法改正対応を小企業の価値向上につなげるために
最低賃金の引き上げも、同一労働同一賃金の対応も、企業にとっては法律上の義務です。
しかし、これを単なる人件費の増加や手続きの負担と捉えるのではなく、自社の賃金ルールを透明にし、働く皆さんが納得して長く活躍できる職場環境を作る絶好のチャンスだと捉えてみてはいかがでしょうか。
評価基準や手当の理由が明確になれば、パート社員さんのモチベーションが高まり、離職率の低下や新しい人材の採用力強化という大きなメリットとして成果が返ってきます。
10月の施行日まで準備期間は限られていますが、慌てず一つずつステップを踏んで進めていきましょう。自社の手当や就業規則をどう見直せばいいのか分からない、労働条件通知書の具体的な記載例を知りたいとお悩みの際は、一人で抱え込まず、ぜひお気軽にご相談くださいね。皆さまの会社が、より働きやすく誇りを持てる職場になるよう、心から応援しています。
【免責事項】
本記事は令和8年8月時点の法制度および答申に基づいた一般的な情報提供です。最低賃金の額や改定日は都道府県ごとに異なり、企業ごとの個別事情により対応方法も変わる場合があります。具体的な就業規則の変更や給与設定については、必ず管轄の労働局や社会保険労務士等の専門家にご確認ください。本記事の内容によるいかなるトラブルについても、著者は責任を負いかねます。









